第10回宮本賞若者シンポジウム


●開催日時:2022 年 3 月 26 日(土) 15時30分~18時 (日本時間)
●主催:日本日中関係学会(本部、関東支部)
 後援:一般社団法人日本アジア共同体文化協力機構(JACCCO)
 協賛:東芝国際交流財団(TIFO)
●開催方式:ZOOM によるオンライン形式

宮本賞 10 周年記念式典(15 時 30 分~16 時)
祝辞(福田康夫元内閣総理大臣/ビデオメッセージ)
宮本賞10周年、おめでとうございます。宮本賞が発足した 2012 年は、尖閣諸島国有化により日中関係が極めて緊張した年でした。その後、両国関係には改善の兆しも見られたものの、お互いの国民感情は目下のところ冷え込んでいます。記念すべき日中国交正常化 50 周年にあたる今年、先達が切り開いた平和と発展、協力の歩みを止めないためにも、お互いの顔と顔が見える人的交流を促進し、次世代の若者の育成を行っていくことが重要でしょう。今回の若者シンポジウムが次の 10 年に向けての礎になることを心から願い、私のご挨拶とさせていただきます。

 

日中の若者へのメッセージ(竹内亮監督/ビデオメッセージ)
元々日本でドキュメンタリーを制作していましたが、日本の現状を中国人に伝えたいと思い、2013 年に中国に引っ越しました。10 年前、尖閣国有化により悪化した中国人の対日感情も、2015年の爆買い、日本観光ブームにより、好意的な見方に変わりました。コロナにより直接交流が途絶えたことで、ここ2年は対日感情が悪化していますが、北京オリンピックで羽生君など日本人選手がブレークしたことで、最近ちょっと良くなっています。中国人の日本への見方が変化しているのに比べ、日本人の中国への見方はこの 10 年間、ずっと変わっていないようです。これは日本のメディアによる極端な中国報道の影響もあると思います。このような状況もあり、最近は日本人向けに中国の現状を紹介するドキュメンタリー番組も制作しています。皆さんにはネットやメディアの情報を鵜呑みにせず、「自分の目」で見たもの、感じたものを大事にしてほしいと思います。大切なのは一人一人の草の根の交流であり、結局は「人」なのです。

 

受賞者の皆さんへのメッセージ(宮本雄二日中関係学会会長)
今、世界は大きな転換期に差し掛かっています。米国の指導国家としての力の衰退、中国の台頭、コロナの発生に加え、ロシアのウクライナ侵攻により、世界は動揺し、揺れ動いています。日中関係についても世界の構図の中で見ていくべきであり、これまでの常識が役に立たない時代に入ったといえるでしょう。皆さんには、今まで常識だと思われていたことを一旦捨てて、新しい時代、新しい世界にどのように対応していくか、自分の頭で考えてみてほしい。開かれた、公平な、客観的な目で世界を眺めてみる。間違えても構わない。間違えたら訂正し、やり直せばよいのです。恐れず、試してみてください。日中は競争はするが、共存関係は続けていくべきです。お互い議論しあい、批判もあるかもしれませんが、その目的は平和共存のためです。戦争はしてはいけない。この点は、これからも変わらない。そして最近つくづく感じるのは、最後は国民同士の関係だということです。皆さんも是非、自分の頭で考え、結論を出していただければと思います。

 

第 10 回宮本賞若者シンポジウム(16:00~18:00)
受賞者による受賞論文プレゼンテーション
◎最優秀賞:ポストコロナ時代における中国オンラインツアー産業の現状と展望
~日本からの示唆~ (南京大学/郭秋欒さん、魏文君さんチーム)
◎優秀賞:ソーシャルメディア時代における日中相互理解増進の試みについての考察
~竹内亮監督『私がここに住む理由』を例にして南京大学/陳傲さん)
◎特別賞:日本の新聞における「一帯一路」報道
〜朝日・日経・産経三紙の対中報道姿勢の分析(北京大学燕京学堂/及川純さん)

テーマ別ディスカッション
(1) メディアを通して見えてくるもの
モデレータ:小山雅久(日中関係学会理事;元三菱商事)
 メディアに対するみなさんの認識は交流のツールとしてたいへん重視されていることがわかりました。特に日中の異文化の理解を深める、双方の若者の意識を理解し合う、などの視点で今回の論文の調査、分析でも役に立ったと思われます。興味深いのはSNSが新聞や TVなど公式報道とは違って良くも悪くも発信者のホンネが聴ける、実態を知ることが出来る点に注目しており、その価値の高さを感じています。もちろん公式報道は相手側の世論形成でも一定の役割を果たしていることから重要であるとの認識も持っています。相手側の公式報道の視聴は制限もあるが、最近は YouTube などを通じて NHK なども鑑賞できる環境にある。双方の若者の意識が今後の日中関係の行方に大きく影響することは確かであり、年配世代も大いに耳を傾ける必要があると思いました。オンラインではありましたが、一日にも早くコロナが去り交流が自由に再開し、更に理解を深めたいことを願っているとの想いが画面の皆さんの表情からも感じられました。

参加者:
陳傲(チン・ゴウ)さん (南京大学外国語学部日本語学科 3 年)
耿雅凝(コウ・ガギョウ)さん(瀋陽大学外国語学部日本語学科 4 年)
楊皓然(ヨウ・コウゼン)さん(大連民族大学日本語学部 4 年)
及川純(オイカワ・ジュン)さん(北京大学燕京学堂修士 2 年)

(2) 日中の経済交流から見えてくるもの
モデレータ:林千野(日中関係学会副会長、宮本賞実行委員長、元双日)
 日本と中国にかかわるビジネスの現場では大きな変化が起きています。日本の資金力、技術力、先進的な生産管理方法等は、1970 年代以降、中国の発展にも大きく寄与してきたと思いますが、最近では中国企業によるイノベーションや、生産技術の向上も著しい状況であり、一方、日本企業は以前に比べ、停滞感が漂っています。よって、参加者の皆さんに日本、もしくは日本企業が中国から学ぶべき点について伺ってみました。参加者からは、イノベーションのスピードについては確かに中国企業に優れた点はあるものの、日本の企業経営者は長期的な視野に立ち、より息の長い企業経営を目指しており、社会の変化にタイムリーに対応することを主目的とする中国の経営者とは根本的に経営スタイルが異なっているとの意見が出されました。また、中国では大学生のスタートアップ起業支援プロジェクトが充実しているのに対し、日本では就活支援は多々あるものの、この面の支援がほとんどないことや、日本のデジタル化は世界的に見ればやや立ち遅れた状況にあることから、中国の AI 技術や、IoT、スマートシティなどの技術を取り入れることで、よりより経済発展が可能になるのではないか、とのコメントも出されました。
 会場からの稲森和夫のアメーバ経営が、中国式経営に適用可能なのかという質問に対しては、稲森氏の経営哲学の根幹は、王陽明の「知行合一」などの東洋思想が大きな影響を与えていることから、中国企業においても適用可能である、また、アメーバ経営の要諦は「人間性を重視すること」であり、「利益より人である」との回答がなされました。
 参加者の皆さんの研究レベルの高さ、正鵠を得た発言に大いに啓発されました。

参加者:
郭秋欒(カク・シュウラン)さん(南京大学外国語学部日本語学科 3 年)
魏文君(ギ・ブンクン)さん (同上)
黄嘉欣(コウ・カキン)さん (明治大学大学院経営学研究科博士後期課程 1 年)

(3)歴史・文化研究から見えてくるもの
モデレータ:村上太輝夫/朝日新聞オピニオン編集部解説面編集長、日中関係学会理事)
 出席者の皆さんは、「女子留学生の歴史はこれまであまり扱われていなかった」(楊さん)、「日本の中国人留学生の団体『創造社』の中で目立つ存在でなかった鄭伯奇に注目した」(曽)など、過去の研究では注目されていなかったテーマを見つけ、探求を進めてきたといいます。こうした取り組みを通じて、日本と中国にまたがる文化交流と歴史に関わる研究全体の厚みが増していくことが期待されます。
 また袁さんは、大学図書館で調べるうちに芥川の中国語訳が多種多様であることを発見し、それが今回の受賞作につながりました。
 水戸学における日本、中国由来の思想の折衷という面に注目した張陽さんは「日中は歯と舌の関係。好き嫌いは別として互いを知ることが大事」と話しました。一見、現実と縁遠いようにみえる歴史や文化の研究もまた、相互理解への有意義な試みの一つとして位置づけられるでしょう。

参加者:
袁藹怡(エン・アイイ)さん (中山大学日本語学科 4 年)
曽小蘭(ソ・ショウラン)さん (東北大学大学院国際文化研究科博士後期課程 3 年)
楊妍(ヨウ・ケン)さん (東北大学大学院国際文化研究科・GSICS フェロー)
張陽(チョウ・ヨウ)さん (関西大学東アジア文化研究科博士後期課程 3 年)

(注)参加者の所属、学年は第 10 回宮本賞応募時(2021 年当時)のものです。

まとめ・閉会の辞 (高久保豊/日本大学教授、日中関係学会理事)
 若い皆さんがそれぞれの専門性を純粋に深め、みずみずしい発見をされていることに拍手を送りたいと思います。既に論文集が出版されていますが、この本には未来を先取りするヒントが満載であり、ここから何が読み取れるかがカギだと思います。
 今日のシンポジウムをさらに展開するために、日中関係学会の青年交流部会では、「宮本賞レター交流 2022 プロジェクト」並びに「宮本賞受賞者を囲む会」(5 月 25 日 18 時 30 分~21 時オンライン開催)の2つのイベントを企画しています。皆さんのご参加をお待ちしています。